学校の勉強の中でも、算数に苦手意識を持っている子どもが少なくないようです。
とくに発達障害などで認知処理様式に偏りがある場合は、その習得段階でたくさんのつまずきを経験することになります。
今回は「同時処理」、「継次処理」といった得意な認知処理様式を活かしながら算数の苦手を克服していく方法をご紹介します。
目次
1. 算数が難しいのはなぜ?
算数は、得意な子・不得意な子の差が大きい教科です。
それは、学年が上がるごとに知識を積み重ねていかなければならない教科だからと言えるでしょう。前の学年で習った内容を理解しないままでは先に進むことはできません。
そのため、得意な子・不得意な子の差がだんだんと開いてしまうのです。
認知処理様式に偏りがある子どもの場合、数の概念を学ぶところからつまずいてしまうことも多く、その後の学習も困難になってしまいます。
算数には「数と計算」、「量と測定」、「図形」などさまざまな分野があることからも、それぞれ考え方を覚え、自分の力で問題を解いていくのはやはり難しいことといえるでしょう。
2. 同時処理・継次処理を活かした勉強法
認知処理様式は、大きく2つに分けることができます。
「同時処理」と「継次処理」それぞれの特徴を見ていきましょう。
2-1. 同時処理と継次処理の違い
「同時処理」は、物事を理解する際、まず全体像を把握し、その後細部の理解を深めていく認知様式です。
視覚的手がかりがあると理解しやすく、空間的・統合的な情報を重視します。
「継次処理」は、物事を理解する際、段階的・部分的に捉えながら全体の理解を深めていく認知様式です。
聴覚的・言語的手がかりがあると理解しやすく、時間的・分析的な情報を重視します。
この2つのバランスが取れている場合、無意識に適したほうを選択したり、双方を複合的に組み合わせたりすることで問題を解決していきます。
しかし、このバランスが取れていない場合、物事を理解するのに困難が生じてしまうのです。
発達障害の子どもは、この認知処理様式に偏りがあることが多くなります。
2-2. どちらが得意かを把握するには?
算数の苦手を克服するためには、子どもに合った勉強法を選ぶ必要があります。
同時処理と継次処理のどちらが得意なのかを把握しましょう。
全体像を把握してからのほうが理解しやすい「同時処理」なのか、一からしっかりと説明をすることで理解しやすい「継次処理」なのか。普段の勉強の仕方や、日常生活を観察してみましょう。
例えば、目的地までの道順を把握する場合、同時処理が得意なら、まず地図を渡してここからここへ行くということを視覚的に捉えさせたほうが理解できます。反対に、継次処理が得意なら、「ここを出て、左に200メートル進んだらコンビニの角を左折して……」など、細かく言葉で指示するほうが理解できます。
子どもがどちらのタイプなのか見極めてみてください。
また、知能検査の1つである「KABC」では、より詳しく検査してどちらが得意なのか、どうやって勉強するのが効果的なのかを知ることができます。
3. 認知処理様式別・算数の勉強法
同時処理と継次処理、得意な様式に合わせた算数の勉強法をご紹介します。
小学校低学年に習う内容で、子どもがつまずきやすい単元を見ていきましょう。
3-1. たし算・ひき算のひっ算(100までの数)の勉強法
数字の概念を理解し、計算の手順に従って計算する必要があります。
【同時処理が得意な場合】
視覚的手がかりがあると理解しやすいので、上に2桁の数字、下に2桁の数字を書くといったひっ算の空間的配置は理解できるでしょう。ただ、その後の計算でつまずいてしまう可能性があります。
(1)計算フォームを作る
図のように、色分けした計算フォームを作り、そこに計算式の数字を書き写させます。
例:13+29


(2)約束カードを作る
フォームに沿った約束カードを作り、それに従って計算を進めさせます。
↓青い矢印の方向に計算し、答えを赤い○の中に書きます。
↓ピンクの矢印の方向に計算し、答えを黒い○の中に書きます。
できるようになってきたら、色や矢印の手がかりを少しずつ減らしていくといいでしょう。
【継次処理が得意な場合】
ひっ算の式を見ただけでは、意味がわからない可能性が高いでしょう。
そのため、式を言語化して理解を助けます。
(1)計算を言語化してノートに書かせる
例:13+29= [ジュウサンたすニジュウクは]
この式をノートに書かせます。
(2)計算の手順表を作り、計算する
下記のような計算の手順表を作ると理解しやすくなります。
例:13+29
①上の数字と下の数字を読む
②1けた目(右)の数字を読む
③その2つの数字をたし算して、答えを横に書く
④たし算の答えの1けた目の数字を下に書く
⑤10のくらいの数字は、2けた目の数字の上に書く
⑥それらの数字を上からじゅんばんに足す
暗算できない場合には、そろばんなどを使ってもいいでしょう。
3-2. 九九の覚え方
九九を正確に唱えられること、かけ算の概念を理解し、計算できるようになることがゴールです。
【同時処理が得意な場合】
九九を音で覚えることが難しい傾向にあります。
「唱えること」にこだわりすぎず、自分でかけ算ができるように導いていきましょう。
(1)九九の表を見せる
空間的な位置関係を手がかりに九九を覚えさせていきます。
まずは九九の表を見せて、どんな数字がどんな位置にあるかなどを尋ねてみましょう。
(2)九九の表を作る
「1×1」、「1×2」……と書いた81枚のかけ算カードを作成し、それを並べて自分で九九の表を作らせます。
最初は(1)で見せた九九の表を見せながらやるといいでしょう。
(3)具体的な物で意味を示す
りんごの絵が描かれたカードなどを使い、何個が何列あるか、全部でいくつあるかという点に注目させながらかけ算の意味を理解させます。
【継次処理が得意な場合】
九九を唱えられても、その意味が理解できない可能性があります。
順を追って理解させていきましょう。
(1)1の段から九九の読みを覚える
九九の式とその読みが書いてあるカードを作り、1の段から九九を音読して覚えさせます。
4 × 2 = 8
(2)式の意味を理解させる
(1)で作ったカードを見ながら、九九の意味を言葉で唱えさせます。
言語化カードを作るとわかりやすいでしょう。
4 × 2 = 8
言語化カード
(3)具体的な場面に当てはめる
(2)で作った言語化カードを見ながらお話を作り、その意味を理解させます。
「りんごが4個ずつ入った袋が2ふくろありました。全部で何個になるでしょうか」など。
3-3. 三角形と四角形の性質の勉強法
三角形と四角形の定義を理解し、それに従って分類できるようにするのが目的です。
【同時処理が得意な場合】
視覚的手がかりがあると理解しやすいので、いろいろな形の図形を見せ、仲間分けさせるといいでしょう。
(1)さまざまな形を仲間分けする
三角形と四角形だけでなく、円やその他の図形のカードを作り、「三角形の仲間」、「四角形の仲間」、「その他」に分けさせます。
(2)分類した形の特徴を話し合う
分類した形がどのような特徴を持っているか話し合わせます。
「三角形には3つの線があるよ」、「とがっているところ(頂点)の数も違うね」など。
(3)棒とシールで形を作らせる
三角形と四角形それぞれについて、線と点がいくつ必要か、プラスチックの棒とシールを使って実際に作らせます。
【継次処理が得意な場合】
まずは言葉で定義を示し、その定義に沿って図形を観察させましょう。
(1)それぞれの定義を覚える
三角形と四角形、それぞれの定義を言葉で書き、覚えさせましょう。
・3つの線(辺)があります。
・3つの頂点もあります。
・4つの線(辺)があります。
・4つの頂点もあります。
(2)棒とシールで形を作らせる
定義に従い、プラスチックの棒とシールを使って三角形と四角形を作らせましょう。
(3)いろいろな図形を分類する
三角形や四角形だけでなく、いろいろな図形のカードを作り、定義を見ながら分類させましょう。
4. 体系的に学習するのもおすすめ
得意な認知処理様式に合わせた勉強に加え、算数の学習でおすすめなのは単元を体系的に学ぶことです。
先にも述べたように、算数は「数と計算」、「量と測定」、「図形」などさまざまな分野があります。
学校の授業では1学年のうちにそれらすべてを一定の分量ずつ勉強することになりますが、算数が苦手な子どもにはそれがつまずきの元にもなるのです。
理解しきれていないうちにまったく別の単元が始まってしまったり、次に同じ分野を学ぶときまでに基礎を忘れてしまったりすることも多いでしょう。
学年の枠を越え、「数と計算」など1つの分野を集中して継続して勉強する無学年方式がおすすめです。
家庭学習をするなら、例えば「すらら」のような、無学年方式で、何度でも繰り返し学習できるオンライン教材が適しているといえるでしょう。
子どもの得意・不得意を把握し、理解しやすい方法で勉強させて苦手意識をなくしてあげましょう。
参考:
・『長所活用型指導で子どもが変わる Part2国語・算数・遊び・日常生活のつまずきの指導』藤田和弘監修/熊谷恵子・青山真二編著(図書文化)
・『長所活用型指導で子どもが変わる Part3認知処理様式を生かす各教科・ソーシャルスキルの指導』藤田和弘監修・熊谷恵子・柘植雅義・三浦光哉・星井純子編著(図書文化)
5. 継次処理と同時処理のどっちが得意?
どちらがどれぐらい得意で不得意かを図る検査サービスがあります。
学習教材「すらら」が2019年3月から検査サービスとして提供しているので、ご興味ある方は下記サイトを見てみてください。
■「すらら」のK-ABCⅡ検査サービス
https://surala.jp/assessment/kabc2/lp/