首をかしげる、同じ言葉を繰り返し言う、などの動作をする「チック症」をご存知でしょうか。
子どもに多く、ストレスや遺伝などのほか、発達障害との併発をしやすい症状ともいわれています。
脳の神経をつなぐ機能のバランスが崩れることが原因と言われていますが、詳しい原因や治療方法はあるのでしょうか。
今回は「チック症」について詳しく考えてみましょう。
目次
1. チック症とは?
「チック症」とは、不随運動という、本人が意識していないにも関わらず体の一部分が動いてしまう症状です。
それは疾患であるにもかかわらず、無意識に動いてしまうこと、わざとではないということが理解されず、偏見の目で見られることが多いため、チック症を患っているひとは生きづらく苦しい思いをしているのが現状です。
1-1.チック症の症状の出方
チック症の症状の出方はさまざまで、主に下記のような様子があります。
- 首をかしげる
- まばたきを激しくする
- 頭を左右に振る
- 肩をすくめる
- 声を出し、同じ音や言葉を繰り返し発する
- 咳ばらいをする
- 鼻をならす
これらの症状はひとつだけ発症することもあれば、複数を同時に発症するときもあります。
また、治まったように見えて違うチック症状が現れることもあります。
多くは5~6歳頃の小さな子どもに発症し、男児の方が女児の5倍以上にも及びます。
こういった症状は1年未満で消えることもあり、短期間で治まることを「一過性チック症」と言います。
また、症状がみられてから1年以上継続して発症するものを「慢性チック症」や、「持続性チック症」といいます。
さらに、症状がみられてから1年以上継続し、音声チックを伴ったものは「慢性多発性チック症」または、「トゥレット症候群」とも呼ばれ、発達障害のひとつと捉えられています。
自分でそういった動きや声を抑えることができないので、周囲に奇異の目で見られる、嫌がられる、からかわれ、バカにされるなど辛い思いをしている人がほとんどです。
なかなか知られていない症状であり、弁明する機会がないことも多く、多くの人が苦しんでいます。
2. チック症の原因
チック症の原因は、ストレスや緊張、環境の急激な変化などと言われています。
さらには、脳の神経伝達物質のバランスが崩れることや遺伝も原因と言われています。
精神的なものからくる症状ではなく、脳の機能の障害なのです。
長い間、チック症は精神的なもの、親のしつけや関わり方が原因とされてきましたが、脳神経の受容体であるドーパミンの異常であることがわかりました。
また、社会からの偏見のまなざしへのストレスから、発達障害の人が併発しやすいこともわかってきました。
3. チック症の治療
チック症の治療法としては、年齢が小さいうちは経過観察をします。
チック症がゆえの行動や動作をやめさせようとはせず、周囲はあたたかく見守り、気にしないそぶりを続けることが大切です。
ただ、症状を完治させる治療法は確立されていません。
代表的な対処法を3つご紹介します。
3-1.心理教育および環境調整
心理教育とは、本人はもちろん周囲のひとへ、チック症とはどういったものなのかを理解してもらうことです。
環境調整とは、症状が出ることを気にしすぎてしまうがゆえに、またその症状を繰り返してしまうことがないよう目指すことです。
具体的には、周囲に直接的な指摘をしないように促すこと、症状がひどくなったときに本人が避難する場所を作ることなどです。
3-2.認知行動療法
学習の法則に基づいて行動の調整を目指す行動療法と、認知の仕方を変えることでストレス軽減を目指す認知療法を合わせた方法で、心理的治療の一種です。
3-3.薬物療法
チック症状が重症な場合は、薬物療法も視野に入れていきます。
脳のドーパミンの働きを抑える薬(抗精神病薬)を使うので、副作用として眠気が強くなり動きが鈍くなることもあります。
そのため、症状が治まってきたら薬の量を減らして様子を見ていきます。
4. 大人のチック症について
5~6歳の子どもに出ることが多いチック症ですが、18歳以上の人が発症することもあります。
子どもの頃に収まることなく、大人になっても症状が継続し慢性化しているケースや、小さな頃にあったチック症が収まっていたにも関わらず、何かをきっかけに再度症状が出てくるケースなどがあります。
大人のチック症も、一見、障害とは見えないため、社会で生きていく中で偏見と差別が大きく、ストレスを抱え生きづらさを感じている人がほとんどです。
仕事が続けられず生きるすべを見失ってしまう人も多くいるのが現状です。
完治を目指した治療法は確立されていませんが、周囲の理解がいちばん大切です。
ですが、それはなかなか難しいので、仕事や生活に支障が出るようであれば速やかに医療機関を受診し、投薬を含めた解決策を知ることも必要です。
悩んでいる方は、ためらわずに精神科や心療内科を受診してみましょう。
5. チック症の診断
チック症に関する診断は、一度だけの受診ではなく、一定期間診察を定期的に受けることが必要になります。
症状の現れる期間によって、以下のように分けられるからです。
- 暫定的チック症:運動チックまたは音声チックがみられるが、持続期間が1年以内の場合
- 持続性(慢性)運動または音声チック症:運動チックまたは音声チックの一方だけが1年以上みられる場合
- トゥレット症候群:運動チックと音声チックの両方が1年以上みられる場合
チック症が見られる期間を観察することで、どれにあたるかを判断していくことになります。
また、ADHDや自閉症など他の障害や症状の併発がないかも観察しながら診断をしていきます。
6. チック症に関するまとめ
日本ではまだ周囲の理解が乏しく、奇異の目にさらされやすいチック症の人たち。
チック症のひとをみかけたり、関わったりする時は、あたたかな気持ちで症状にふれないことが大切です。
チック症の人は、脳機能の障害のせいで無意識に動かし、声を出しているのです。
本人に説明の機会がなくても、周囲はその動作を指摘してやめさせることをせず、受け入れてあげたいものですね。
またチック症の当事者は、自分の症状について周囲に説明をし、理解を得てストレスを軽減することが大切です。
悩みが深いときには医療機関にかかるなどしてみましょう。