発達障害のひとつに、学習障害(LD)と言われる障害があります。
視覚、聴覚などには問題がなく、知的能力にも大きな遅れを持たないにも関わらず、ある特定の学習に困難があるものが学習障害です。
学習障害には大きく3つのタイプがあり、「ディスレクシア(読字障害)」、「ディスグラフィア(書字表出障害)」、「ディスカリキュア(算数障害)」といった種類に分けられます。お子さんが文字を書くのに困難がある、何度練習しても正しい文字が書けないといったことがあった場合、「ディスグラフィア(書字表出障害)」の可能性があります。
決して怠けているわけではないので、何度も無理な練習をさせたり、叱ってしまうことは逆効果です。
ここでは、書くことに困難がある「ディスグラフィア(書字表出障害)」について、どんな障害なのかということや、サポート・支援の方法についてご紹介いたします。
目次
1. 「ディスグラフィア(書字表出障害)」の症状例は?鏡文字など
「ディスグラフィア(書字表出障害)」は文字を書く、文章を綴るということをとても苦手とする障害です。
文字そのものが書けないというわけではなく、その症状の表れ方は人によってそれぞれ変わってきます。
主な症状の例をいくつみてみましょう。
<「ディスグラフィア(書字表出障害)」の症状例>
- 正確に書くことができない
- 字を忘れてしまう
- 書き順がバラバラ
- 漢字が曖昧で、部首や辺などの位置を間違えやすい
- 似たような綴りを間違えたり、ミスが多い
- 文章や書いた文字がはみ出してしまう
- 文字の大きさがバラバラ
- 句読点が不自然
- 「〜が」「〜も」などの助詞の使い方のミス
「ディスグラフィア(書字表出障害)」は、先生が黒板に書いた内容そのものは理解でき、声に出して読むことにも問題はありません。
しかしそれをノートに書き写す時に、文字が左右逆転してしまう「鏡文字」になったり、正しく文字を書けないという困難が特徴的です。
この他にも曖昧な特徴としてはいくつかありますが、アメリカ精神医学会においてのマニュアルである「DSM-5」においては、以下のような内容をもって定められています。
315.2(F81.81)書字表出の障害を伴う: (日本精神神経学会/監修「DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル」2014年医学書院/刊 P66より引用 |
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・綴り字の困難さ ・文法と句読点の正確さ ・書字表出の明確さまたは構成力 |
「ディスグラフィア(書字表出障害)」には文章を書くことだけでなく、読むことも苦手なケースも少なからず見られます。
この場合は読字障害の障害が伴って、相互に影響していることも考えられます。
2. 「ディスグラフィア(書字表出障害)」の原因は?不明点が多い
学習障害だけでなく、発達障害といわれる障害は、その原因やメカニズムについて不明な点が多く、今後の研究に期待される部分が多い分野です。はっきりとは解明されていない中でも、「書くことの困難につながっているのでは」、と考えられている要素を3つのポイントに分けてご紹介します。
①視覚情報処理や空間認識力の困難
ひらがなの場合、「た」と「に」、「め」と「ぬ」などの似たパーツの形を正確に記憶するためには、視覚的な情報処理の能力が必要となります。特に漢字は複雑化し、辺や作り、部首の位置、大きさなどのバランスを認識、区別して正確に書くことで、一つの漢字が出来上がります。
外国人に漢字を書いてもらった時、線の本数がちがったり、部首の大きさが極端になるなど全体のバランスが整っていないために、同じ漢字でも違った文字に見えてしまうことがあります。これは全て視覚的に形としてとらえられた情報を文字にした結果、正しく書き写すことが出来ていないケースです。
②音韻処理が困難
一つの文字に対する読み方の音が分からずどのように書いたら良いかわからないケースは、音韻処理に問題がある場合があります。
例えば「か」は「ka」と発音するというように、「か=ka」という正しい発音を捉えることが難しい場合、読むことにも困難を感じ、読字障害の影響が出ていることが考えられます。
③手先の不器用さからの困難
発達障害の中には、指先を使った細かい作業を苦手とする障害があります。
これを「発達性協調運動障害」といい、別名「不器用症候群」とも言われます。文字を行やマスに沿ってきちんと書けない、はみ出してしまったり、文字の大きさがバラバラ、書くことに極端に時間がかかるなどのケースは、発達性協調運動障害からの影響とも考えられるでしょう。
3. 「ディスグラフィア(書字表出障害)」の兆候は?学童期から
文字を書く機会が少ない児童期まではわからないケースが多く、学童期になって集団での勉強が始まることで発覚することがほとんどです。
ノートをとるペースが遅い、誤字脱字が多い様子が見られたら、すぐに「ディスグラフィア(書字表出障害)」とは決めつけずに、担任の先生とよく相談をしましょう。単に書くことが苦手なだけで、本人にあった支援方法で解消するかどうか、少し様子をみましょう。
それでも改善されない時は、診断を受けることをおすすめします。
4. 「ディスグラフィア(書字表出障害)」の診断はどうする?まずは自治体の専門機関に相談
半年から一年かけて改善されなかった場合は診断を受けることで、今後の対応や支援の方法がわかってきます。
相談する場所は福祉課、保健センター、子育て支援センター、発達障害支援センターなどの自治体の専門機関がよいでしょう。その後、専門の医師による診断は、DSM-5やICD-10といった診断基準のマニュアルを元に、知的発達レベルを評価する知能検査なども取り入れながら判断されます。
今のところ、この数値の結果はディスグラフィアである、といった明確な診断基準はないのが現状です。
しかし診断結果を受けることで、年齢に相応した学力と比較し、極端に遅れがある特性などを明確にすることができます。
その結果をふまえて、今後の支援方法につながる適切なサポートの方向性を決めることが最も大切となってきます。
5. 「ディスグラフィア(書字表出障害)」に必要な支援について
視覚的にイメージすることが苦手な場合は、文字を細かくわけ、パズルのように組み合わせて文字を完成するトレーニングも有効です。また、文字のバランスをとることが難しい場合は、大きなマス目を使って文字を書く練習も効果的でしょう。
本人の苦手意識がクローズアップされないよう、ディスグラフィア向けに作られた教材を取り入れることがおすすめです。
決して知能の遅れや勉強不足ではありませんので、根気よくサポートできるよう親子で楽しみながら進めていける教材を選ぶようにしましょう。
最近は子供が楽しめるイラストやパズル形式などを使い、インターネットを通じでトライできる教材も人気です。
下記記事も参考にしてみてください。
6. 得意・不得意を明確に!適切な支援を行うためにも知能検査
「ディスグラフィア(書字表出障害)」は、書くことに困難のある障害ですが、その他の学習は特に問題なく進めていけるケースもあります。
知能検査を受けることで、本人の得意、不得意な分野を明確にし、家庭と学校、支援機関などの協力で、得意なことを伸ばすサポートを続けましょう。
また、将来、自分の力で進んで行くためにも、小さな成功体験の積み重ねがとても大切です。
適切な教育プログラムを取り入れることで、すんなりと理解できることが増えたり、「やれば出来る」という自信につなげたりすることもできます。
親子で力を合わせて乗り越えていくために、支援機関や専門の教育プログラムなどのサポートは積極的に活用していきましょう。