発達障害の子どもは、その障害が原因で勉強が苦手になってしまいがちです。その結果、勉強自体を拒絶してしまう子どもも少なくありません。今回は、発達障害の子どもが勉強できない5つの理由とその解決のヒントをご紹介します。一人ひとり障害の種類と度合いは異なるので、当てはまるところを参考にしてください。
目次
1. 勉強しても無駄だと思っている
テストで悪い点数が続いたり、授業についていけずに恥ずかしい思いをしたり、親や先生に叱られたり、勉強に対する悪いイメージが続くと、子どもは勉強へのヤル気を失ってしまいます。そして、“どうせ勉強しても無駄なんだ”と思い込んでしまうのです。
毎日2枚のプリント5時間掛けて、それでも出来なくて朝学校でやりなって言ってるけど さらにプリント多いんじゃ、もうどうにもならないよ。
先生は娘が発達障害で集中力が続かないってるのを忘れたのかな?
普通の脳の子と同じ量を出されても…。
何で支援学校ないんだろ。#発達障害 #宿題— ぷりん (@purin_0420) 2017年10月26日
https://twitter.com/purin_0420/status/923471666142838784
発達障害の子どもが勉強できないのは、その障害が原因。決して本人が怠けているというわけではありません。そして、それを自力で解決するのは困難です。子どものペースに合わせて保護者や教師がサポートしていく必要があります。その方法は2~5を参考にしてください。ここでは、前向きに勉強と向き合うための解決策をご紹介します。
解決策① 勉強するといいことがあると思わせる
①褒める
“勉強するといいことがある”と感じさせるために、一番大切なのは褒めてあげること。子どもが勉強していたら、「えらいね」、「すごいね」とできるだけ間を空けずに声をかけてあげましょう。できなかった問題が解けた、テストの点数が少しでも上がったなど、小さな成果が見えた場合にも、惜しまず褒めてあげてください。
②ご褒美をあげる
①の「褒める」も子どもにとってはご褒美になります。そのほか、ドリルを1ページクリアするごとにスタンプを押したり、シールを貼ったりといった小さなご褒美も考えてみましょう。収集癖がある子どもは、ご褒美スタンプを集めたいから勉強するというのがモチベーションになることもあります。「スタンプを20個集めたらアイスクリームを食べようか」というように、勉強するといいことがあるというプラスのイメージを持たせるようにしましょう。
解決策② レベルに合った勉強で“できた!”を体験させる
①自分に合った内容を学ぶ
過去に習った内容が理解できていないのに、先へ進むことはできません。先を急がせて自信をなくさせてしまうよりは、できる問題までさかのぼって「できた!」という喜びを感じさせてあげましょう。発達障害の子どもは凹凸が激しいという特徴があります。そのため、得意分野は伸ばして自信をつけさせ、不得意分野は過去にさかのぼって勉強するというように、教科ごと、分野ごとにレベルを調整する必要があるのです。学年の枠を越えて勉強できる「無学年方式」の教材や個別指導の塾・家庭教師がおすすめです。
②スモールステップで学ぶ
目標を細かく設定し、達成感を持たせることも効果的です。たとえば“計算ドリルを1ページ”とか“漢字を3つ覚える”という風に、すぐに達成できるようなスモールステップの目標を設定し、「わかった!」、「できた!」をたくさん感じさせるようにします。成功体験を積み上げていくことがヤル気へとつながります。勉強習慣が身についてくると、自分自身で問題が解けること、知識が増えていくこと自体が喜びになっていきます。
2. 勉強法が自分に合っていない
発達障害の子どもは、その障害によってさまざまな学習困難があります。よく知られているものに下記のような困難があり、それを補わずに勉強させようとすると効果が出ず、勉強そのものが嫌いになってしまうこともあります。
<発達障害による学習困難の例>
自閉スペクトラム症(ASD)
- 人との関わりが苦手で集団授業・グループワークについていけない
- 融通が利かず、突然指名されたり、抜き打ちテストがあったりするとパニックになる
- こだわりが強く、興味のあるものにしか集中できない
- 想像力が乏しく、推論するような問題が解けない
注意欠陥多動性障害(ADHD)
- 机に落ち着いて座っていられず、席を立ってしまう
- 整理整頓が苦手で机が散らかり、勉強に集中できない
- 手や足をいつも動かしたり、物音を立てたりする
- 宿題が出たことをすぐに忘れてしまう
- 授業中におしゃべりしたり、他の生徒の邪魔をしたりする
- 忘れ物が多く、授業に必要なものを持ってこない
学習障害(LD)
- 文字を読むことが苦手(発音できない、読み間違いが多いなど)
- 文字を書くことが苦手(漢字を覚えることができない、文法が理解できないなど)
- 算数が苦手(繰り上がりや繰り下がりの計算が理解できない、九九が覚えられないなど)
- 推論することが苦手(文章題が解けない、想像力を問われる問題が解けないなど)
解決策 苦手を補いながら勉強する
①視覚・聴覚を使った勉強法
学習障害(LD)の多くは、文字や文章の読み書きに困難が生じます。読み書きはすべての教科の勉強に関わるため、早めに支援することが大切です。「視覚優位」、「聴覚優位」など、その子の得意な感覚を使った方法で学ぶことを覚えさせてあげましょう。絵を交えた勉強法や、歌で覚える方法、動画やアニメーションを使ったeラーニング教材など、適した勉強法を見つけてください。
https://surala.jp/form/student_test/trialentry.php
②対人ストレスのない勉強法
自閉スペクトラム症(ASD)の子どもは、状況に応じて適切なコミュニケーションをとることが苦手な傾向があります。また、注意欠陥多動性障害(ADHD)の場合、周囲の人が気になり、集中力が散漫になってしまう傾向があります。
そのような子どもは、人との関わりが少ない環境で勉強したほうが集中力が上がり、勉強の成果も出やすくなります。集団指導の塾より個別指導塾や家庭教師が向いているでしょう。また、先生との関わりもストレスになってしまう場合、家庭で、一人でできる勉強法がおすすめです。パソコンやタブレットで学ぶeラーニング教材は、アニメや動画で学べるため、ヘッドセットなどを使えば“一人の世界”に入りながら勉強することができます。
③苦手を補う道具を使う
答えがわかっているのに文字が書けないため正解できない、解き方はわかっているのに途中の計算でつまずいてしまうといった子どももいます。そのせいで勉強嫌いになってしまうのはもったいないことです。文字を書くことが苦手な子どもにはパソコンや録音機器、計算ができない子には電卓を使わせるなど、苦手な機能は道具で補い、学習への興味を失わせないようにしましょう。
3. 集中力を持続することができない
発達障害の子どもは、その障害によりなかなか勉強に集中することができません。
とくに注意欠陥多動性障害(ADHD)の場合、どの傾向が強く出るかは個人で違いますが
- 不注意(集中力がない・気が散りやすい)
- 多動性(じっとしていられない・落ち着きがない)
- 衝動性 (順番を待てない・考える前に実行してしまう)
といった症状があります。その場合、その症状をできるだけ抑えるような学習環境を用意してあげる必要があります。
解決策 集中力を持続しやすい環境を整える
①壁に向いて勉強する
窓の外の景色が見えたり、部屋の中の関係のないものが見えたりすると、その視覚的刺激によって集中力が失われてしまいます。机は壁を向け、余計なものが目に入らないようにしましょう。
②ヘッドセット・耳栓をする
症状の出方にもよりますが、耳から入ってくる刺激に敏感で、車の音や人の声が聞こえると集中できないこともあります。不要な聴覚情報を遮断するヘッドセットや、耳栓をつけるのがおすすめです。
③一人の空間を作る
人の動きに敏感で、すぐに気が散ってしまうことがあります。大勢の人がいる教室や図書館、家族のいる部屋では集中できないため、落ち着いた一人の空間を作ってあげるようにしましょう。また、マンガやテレビ、携帯電話、パソコンなど勉強に関係のないものはそこには置かないことが大切です。
4. 記憶力が悪くすぐに忘れてしまう
発達障害の子どもの中には、ワーキングメモリが低く、記憶をなかなか定着することができない子もいます。そのため、覚えたと思ってもすぐに忘れてしまい、勉強が先に進まないのです。
解決策① 印象に残る勉強法
記憶を定着させるには、短期記憶を長期記憶化する必要があります。文字だらけの問題集など、無味乾燥な学習を続けても、なかなか長期記憶にはなりません。アニメや動画で学ぶeラーニング教材など、本人が興味を持てる内容なら、長期記憶化しやすくなります。また、読み書きが苦手な場合には、視覚や聴覚を使って学ぶことも効果的です。
解決策② 反復学習
長期記憶化するために必要なのは、反復学習です。何度も繰り返し似たような問題を出し、少し間を空けて復習を繰り返します。記憶が定着していないときには、手元に問題を解くためのヒント(例えば数学の公式や、英単語の意味など)を置いておくのもいいでしょう。また、面白くない勉強を繰り返すことはつらいので、【解決策①】のように、印象に残る勉強法を繰り返す必要があります。
5. 何から手をつけていいかがわからない
注意欠陥多動性障害(ADHD)の場合、次から次へと思考が移り、何から勉強していいかわからなくなってしまう傾向があります。また、自閉スペクトラム症(ASD)では、あらかじめ決められた行動をすることを好み、突発的な行動には対応できないという傾向もあります。何をすればいいか迷わない状態にしておくことで、勉強にすんなりと入ることができます。
解決策 学習計画を事前に作る
今日やることが一目でわかる、学習計画を事前に作り、目立つところに貼っておくといいでしょう。「3. 集中力を持続することができない」でご紹介した学習環境も整えつつ、学習計画も作るのが効果的です。
また、自閉スペクトラム症の場合、決められた行動を繰り返すことを好む傾向にあります。勉強する時間帯を16:00〜16:30の30分と決めたり、毎日算数と国語の問題を1ページずつやるなど、勉強する内容をパターン化したりするのもおすすめです。
今は何をする時間なのか、一目でわかる表を貼っておくのがおすすめ。
このように、発達障害の子どもでも、落ち着いて勉強するためにしてあげられることはたくさんあります。できるだけ早いうちにこのような支援態勢を整え、勉強に対して前向きになれるようにしてあげましょう。