授業中や家庭学習時に集中力を保つことができず、勉強に苦手意識を持つことが多いADHD。周囲の大人がADHDの特徴を理解し、成績を伸ばしてあげられたら、学校や授業がもっと楽しくなるはずです。今回はADHDの特徴を理解しつつ、ADHDの子どもに合った勉強法を考えていきましょう。
目次
1. ADHD(注意欠陥多動性障害)による勉強面の障害
ADHDの子どもたちは、45分~50分の授業に集中できず、体が動いたり、時には教室の中を立ち歩いたりすることもあります。まずはADHDがどういった障害なのか、理解し受け止めることが大切です。
1-1. ADHD(注意欠陥多動性障害)とはどんな発達障害?
ADHDには、大きく3つの特徴があります。
- 不注意(集中力が続かず、気が散りやすい。忘れっぽくケアレスミスが多い)
- 多動性(じっとしていることが苦手で、落ち着きがない)
- 衝動性(思いついたことを、考える前に実行したり、話したりする)
個々によって症状は様々ですが、大きな特徴はこの3つです。原因は、脳の前側部分にある前頭前野の働きに偏りがあるためで、遺伝や環境が要因とされていますが、今もはっきりとした原因は解明されていません。
脳の機能の障害なので治療方法はなく、困っている症状を緩和するための投薬はありますが治療を目的にするものではありません。そのため周囲が温かく理解したり、生活や学習する環境を整えたりすること、本人が社会的なスキルをアップできるようにSST(ソーシャルスキルトレーニング)を受けたりすることが大切です。
ADHDの特徴による行動に対して、周囲も本人も困ってしまい、本人は責められ注意を受けすぎることで自己肯定感が低下し、うつ病など二次障害が起こることもあります。温かく見守り、自信を持って生きていけるようなフォローが必要になります。
1-2. ADHD(注意欠陥多動性障害)による勉強面への障害は?
3つの大きな特徴を持つADHDですが、勉強面への障害も色々な場面で現れます。
<ADHDによる勉強面への障害の具体例>
- ケアレスミスが多い
- 集中の持続が難しい
- 好きなことや興味のあることに過集中してしまい切替が難しい
- 先の見通しができないので、助言がないと途中で投げ出してしまう
- 漢字の練習やたくさんの計算問題など、同じことを繰り返すことが苦手
- 失くしもの、忘れ物が多い
- 授業中など座り続けるのが難しい
- おしゃべりが止まらない
こういった状況が多く、年齢なりの行動や勉強に向かう姿勢がなかなか身につきません。脳のワーキングメモリーという機能の不十分さや、意図的ではなく無意識に動いてしまうことと、それを抑えることができない特性によりこのような行動をしてしまいます。勉強は理解できるものの、落ち着きのなさから勉強に集中できず、少しずつ意欲や理解が低下し、苦手になってしまうことも少なくありません。
1-3. ADHD(注意欠陥多動性障害)の子どもが勉強時に見せる行動例
・Sくん(小学2年生・男子)
授業中は落ち着いて座っていられるものの、独り言を言う、また、手を挙げて答える場面ではだしぬけに答えるなど、周囲の子どもや担任の先生にもうんざりされているSくん。かけ算など、暗記が必要なものに関しては難なく覚えることができ、どんどん答えを言ってしまいます。
・Tくん(小学4年生・男子)
毎日もらう宿題のプリントには、漢字の練習と計算問題があります。漢字も計算もプリントにびっしりと並び、それを見ただけで取り掛かる前から「できない」と諦めてしまいます。家庭学習はおろか、宿題も取り掛かるのに何時間もかかり、短時間で終わらせることができません。
・Mちゃん(小学5年生・女子)
文字を書くのが苦手で飽きてしまうMちゃん。ノートやプリントの指示されたマスへ、文字を書くことができません。好きなマンガや絵を描く時は、小さな場所へたくさんの文字やセリフを書くことに集中できるのですが、勉強のこととなると文字を書くことに集中を持続させられないようです。
・Oくん(中学1年生・男子)
勉強に取り掛かろうとすると、部屋の片づけが気になりなかなか取り掛かれません。「宿題やったの?」と家族に声をかけられると、「今やるよ、もうすぐやるから」と言いますが一向に取り掛かれず、次々と他の事へ興味・関心が移っていきます。結局疲れてしまい、手を付けず眠ってしまう日々です。
2. ADHD(注意欠陥多動性障害)の子どもに必要な勉強法
ADHDの子どもの特徴をふまえ、どういった勉強法が効率的か、周囲の大人が工夫し援助していくことが必要です。勉強法と、心がけたい対応、適切な教材や素材を考えていきましょう。
2-1. ADHD(注意欠陥多動性障害)の特性に合った勉強法を
・取組む前に時間や予定の見通しを、具体的にわかりやすく提示
3時になったら10分休憩して、次は国語をやるよ、15分やったら今日はおしまい等、具体的に告げ、目で見て理解できるようにメモに書いて知らせる。先が見えることで我慢し集中力の持続が期待できます。
・短時間で切上げ、短時間でも集中できたこと、勉強できたことを認め言葉で伝える
その子に合わせて集中できる時間を設定しましょう。15分でできるような教材を用意し、集中できたこと、時間内に追われたことを喜び、認めましょう。
・できたことを認め自覚させることで安心感と自信を持たせる
「すごいね!」など過剰なほめ方ではなく、「できたね、終われたね」と事実を淡々と言葉にするだけでいいのです。自分にもきちんと勉強ができたと安心することが自信につながり、またやってみようと次への意欲となるでしょう。
・皆と同じ勉強方法、宿題量にこだわらず、スモールステップで
同じ量の宿題や課題をするのが難しければ、半分など量を減らし取り組めたことを認めましょう。徐々に量を増やしていくことでさらに興味・意欲をもって取組めますね。
・得意なのはどんな方法?視覚優位と聴覚優位
見て学ぶことが得意か、音として聞いて勉強することが得意なのかを見極めましょう。文字をマス目の中に書きやすいように色分けされているノートや、タブレット教材、動画サイトを使った学習法など、楽に楽しく勉強になる方法を見つけましょう。小学生から中学生の前半くらいまでは、勉強に向かう習慣とできる自信をつけることが大切です。
・勉強に取り掛かりやすい環境を整える
家庭であればテレビやラジオなど注意を引くものはやめ、机のまわりはすっきりとさせてから始めたいですね。学校であれば、掲示物はなるべく貼らず、ADHDの子どもの席は前にして様々な刺激を感じにくくしましょう。
2-2. ADHD(注意欠陥多動性障害)の子どもに合った教材は?
家庭学習や宿題の取組み関しては、家族の協力が必要になりますが、親子で取組むにも限界があります。例えば、自宅に招く家庭教師や、タブレットやワークを使う通信教育、パソコンやインターネットを使ったウェブ塾など、様々な手段を使いながら勉強するのも効率的です。
楽しく対話しながら、様々な感覚(見る・話す・聴く・書く・読む)を使って取組む教材もあります。発達障害の子どもや、勉強につまずきのある子どもの診断をしてくれる塾もあるので、その子の特性や得意なことに合った勉強法や教材を見つけ、成績アップを目指しましょう。
3. まとめ
ADHDの子どもは興味・関心のあることには集中力を発揮し、さらに掘り進めて自分の知識に対する優越感を持ちながら自信をつけて成長していきます。そういった特性を上手く学習意欲につなげられるよう、その子の特性に合った勉強法や教材を探していきましょう。