自閉症は「他人との関係を築くのが難しい」、「コミュニケーションをとるのが難しい」、「興味や関心の幅が狭くこだわりが強い」といった3つの特徴を持った障害の総称です。原因は未だに明らかになっておらず、遺伝や環境による影響とされていますが、決して親の教育やしつけが悪くて起こる障害ではありません。
一言で自閉症といっても、3つの特性に加えて、それ以外の特性も混ざっており、単純に1つの障害として区別することは難しいことです。以前は障害の細かい分類方法が診断基準として使用されていましたが、現在は「自閉症スペクトラム障害」として統一されてきています。そこで今回は、以前に使用されていた自閉症の分類方法を参考にして、自閉症への理解を深めていきます。
1. 自閉症とは?現在と過去の分類方法の違い
文部科学省の定義によると、自閉症は以下の3つの特徴を含む障害とされています。
<自閉症の3つの特徴>
- 他人との社会的関係の形成の困難さ
- 言葉の発達の遅れ
- 興味や関心が狭く特定のものにこだわる
しかし、これは平成15年に定められた定義であり、現在とは異なる部分があります。自閉症の種類を知る前に、現在と過去の自閉症の考え方の違いを把握していきましょう。
1-1. 現在における「自閉症」は多くの障害を1つにまとめたもの
発達障害の診断はアメリカの精神医学会により作られた、DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)と呼ばれる基準が参考にされます。このDSMは2013年に改定され、それまでの自閉症の捉え方から大きな変更がありました。
以前、自閉症はアルペルガー症候群などとともに、広汎性発達障害(こうはんせいはったつしょうがい)と呼ばれる発達障害の大きな枠組みの中の1つでした。
しかし、新しいDSMでは障害名にとらわれて支援を決めるのではなく、「対人関係やコミュニケーションが困難」、「こだわりが強い」といった自閉症の特徴を持つ子どもをひとつにまとめて、子ども一人ひとりの困りごとや特性をしっかり見極めて支援や治療を行うという考え方に変わりました。
そのため、現在では以前のように細かく障害を分類することがなくなり、「自閉症スペクトラム障害」として統一されています。
1-2. 細かい分類はもうしない?自閉症スペクトラムの分類方法
しかしながら、以前のような細かい分類を全くしないかといえばそうではありません。子どもの特性を把握する方法として、「自閉度」や「知能指数(IQ)」、「言語の発達の程度」により自閉症の子どもを細かく分析することができます。ちなみに自閉度とは、自分の殻に閉じこもって、他者や社会と関わりをもたない度合いです。
2. 自閉症の種類とそれぞれの特徴や症状の違い
先ほど解説したように、以前とは違い自閉症は多くの障害の総称として使用されます。しかし、自閉症の子どもの特性をより細かく把握するためには、指標を使いながら、障害の特性や症状の違いを知ることは大切です。そこで、以前の分類をもとに、自閉症の種類を特性や症状を含めて紹介します。
2-1. 自閉症
典型的な自閉症は、自閉症スペクトラムで見られる、「対人関係やコミュニケーションの難しさ」や「こだわりの強さ」に加えて、知的な遅れや言語の遅れが見られる場合があります。また、IQの度合いによって、次で説明する高機能自閉症と分けられます。
2-2. 高機能自閉症
典型的な自閉症の中でも、IQが71以上と明らかな知的な遅れがない場合は、高機能自閉症と分類されます。アスペルガー症候群との違いがわかりにくいですが、高機能自閉症は自閉症の特徴でもある言葉の遅れが見られるのが特徴です。
2-3. アスペルガー症候群
知的な遅れがなく、言語の遅れも見られないのが特徴です。こだわりの強さや対人関係の困難さは見られるため、他の障害に比べて、周りに気付かれにくく、誤解されやすいといった傾向があります。
また、相手の気持ちや周りの空気、暗黙のルールなどが理解できず、トラブルとなることもあります。感覚が過敏であったり、運動が苦手だったりといった特徴も見られます。
2-4. 低機能自閉症(カナー症候群)
自閉症の中でも知的な発達が遅れて、自閉度も高い障害を低機能自閉症と言います。また、発見者の名前にちなんで、別名カナー症候群とも呼びます。
知的な機能としてはIQ70以下が低機能自閉症の目安ですが、それよりも極端に低い場合は、知的な遅れだけでなく、身体的な発達の遅れや障害が生じることもあります。
2-5. 小児期崩壊性障害
2歳ごろまでは正常な発達の過程をたどっていくものの、突然、成長するにつれて獲得していった能力が失われてしまう障害です。コミュニケーションや人間関係が困難になり、特定のものへのこだわりなど自閉症の症状が現れ、言語や知的な遅れも見られるようになります。
2-6. 折れ線型自閉症
1歳半から3歳ごろまでは正常な発達をしていくものの、徐々に成長が退行していき、自閉症の症状が現れる障害です。折れ線型自閉症はしゃべれていた言葉がしゃべれなくなっていくのが特徴です。ただし、半年から数年後に言葉を再度獲得する場合もあります。
2-7. サヴァン症候群
サヴァン症候群は「芸術」や「音楽」などある1つの分野で飛び抜けた才能を発揮する人のことを指します。サヴァン症候群は自閉症の人以外でも見られることがありますので、厳密には自閉症の分類には含まれません。
しかし、自閉症の中にはサヴァン症候群の特徴を持つ人がいることも事実です。
3. 自閉症の症状を細かく見て、無数に種類を分類できることを知ろう
自閉症を障害名でわけて紹介しましたが、今度は自閉症の症状を細かく理解して、障害名だけではなく、子ども一人ひとりの特性を把握できるようにしましょう。
コミュニケーションの障害を例にあげても、単純に言葉の発達が遅いというだけではなく、言葉の使い方にいろいろな特徴があります。さまざまな症状を知ることで、自閉症を無数の種類に分けることができるということが分かり、現在の「自閉症は大きな枠組の1つ」という概念の理解を進めることができます。
3-1. コミュニケーションや対人関係の症状
コミュニケーションの中でも、「言葉使い」に関しては、子どもによっていろいろなパターンがあります。
- 言葉がなかなか出ない
- 感情がこもっていない
- 大人びた言葉使いをする
- 独り言のようにつぶやく
- 何度もオウム返しをする
また、会話の捉え方にも特徴があります。冗談をそのまま受け取って怒ったり、「耳が痛い話」などの比喩や慣用句などを言葉通り理解して、病気だと思い込んだりといったこともあります。
相手の気持ちを会話からくみ取ったり、場の空気を読まずに会話に割り込んだりといった特徴もみられます。
3-2. 興味が偏っている・こだわりが強い
興味や関心がある特定のものに強く偏り、1つの物事に深く入り込みます。また、記憶力が抜群で、1度見たものを忘れず記憶できるという子どももいます。
反対にこだわりの強さが災いして、自分の思った通りにならなければパニックを起こしたり、かんしゃくを起こしたりする場合もあります。ものの順番や色の配列、形、種類など自分の決めたルールにこだわるなど、子どもによってさまざまなこだわりが見られます。体の動きにもこだわりを持つ場合があり、一定の動きを繰り返すといった常同行動(じょうどうこうどう)が現れることもあります。
3-3. 感覚に偏りがある
自閉症の子どもは、五感が敏感または鈍感であることが少なくありません。例えば、特定の音や匂い、光などが苦手で、普段の生活に支障が出る場合もあります。運動の感覚や触覚が鈍感で、運動が苦手だったり、手先が不器用だったりすることもあります。
4. 自閉症の種類に関するまとめ
自閉症を含む障害はいくつもあり、以前の分類からそれぞれの特性や症状を把握することができます。
しかし、実際ははっきりと分類することは難しい場合も多く、子ども一人一人の特性をしっかり把握して、療育などの支援に役立てることが重要です。
そのために、しっかと自閉症の特徴を把握して、子どもにどのような症状が見られるかをしっかり見極められるようにしましょう。そして、障害の分類を参考にしつつ、個別性のある支援方法を考えていきましょう。