「少しの音や光に過敏に反応する」、「ちょっとした刺激で大げさに驚く」といったお子さんの特徴は、もしかするとHSC(Highly Sensitive Child)によるものかもしれません。HSCは発達障害と間違えられやすく、世間にもまだ十分知られていません。そこで、今回はHSCの具体的な特徴や発達障害との違いを解説します。
目次
1. HSCとは
HSCとは、「敏感」、「感受性豊か」、「神経質」といった特徴が際立つ子どものことを言います。まずは、HSCの特徴を詳しくご紹介します。
1-1. HSCは意外と身近に存在する?
HSCとは、アメリカの研究者であるエイレン・N・アーロンによって考えられた言葉です。アーロン博士は、まず生まれながらに五感が鋭く敏感で、ひといちばい感受性が高い人のことを、「HSP(Highly Sensitive Person)」と呼びました。そして、HSPの特徴を持つ子どものことをHSCと呼びました。
みなさんの中にはHSCという単語を、あまり聞きなれない方も少なくないでしょう。そのため、「珍しい特徴の子ども」と思われる方も多いかもしれません。
しかし、アーロン博士によるとHSPの割合は人口の15%〜20%、つまり5人に1人程度とされており、子どもたちの中で、HSCの特徴がある子どもの割合も同じ程度であるとしています。
つまり、自分の子どもや周りの子どもがHSCであっても、何ら珍しいことではなく、身近に存在する子どもたちと言えるのです。
1-2. HSCの特徴は「敏感さ」。具体例を交えて紹介
私たちの周りには音や光など五感で感じる刺激や、周囲の人間関係や雰囲気などの人との関わり合いの中で生じる刺激など様々な刺激があります。HSCの子どもは、そのような刺激に対する感受性が、他の子どもより強く、敏感に反応してしまう点が最大の特徴です。イメージしづらい方のために、以下にHSCの子どもがとる具体的行動を挙げてみました。
<HSCの子どもがとる具体的行動>
- みんな大声で騒いでいる場所に圧倒されて入れない
- 服のタグや靴下の縫い目の位置などが気になってしかたがない
- 照明の光が強い場所では遊びたがらない
- 少しの汚れでも気にして着替えたがる
- 大好きなアニメでも大きな音がする映画館では見られない
- 初めての場所ではいつも静かにひっそりとしている
- 人が嫌がっていたり、苦しんでいたりする様子にすぐ気付く
- 質問されても自分の希望や意見を言えずにずっと悩んでいる
- いつも失敗やミスをしないように気にしている
- 人の言葉や周りの雰囲気を察して細かく気を使う
具体例を10個あげてみましたが、前半の5つは、聴覚や視覚、触覚などの五感が敏感なことが原因で起こる行動と言えます。後半の5つは周囲の環境や人の感情・気持ちといったものの変化に対して敏感なことが原因で起こる行動です。
HSCは刺激に対する感受性が高く、繊細であるがゆえに、人と積極的に関わりづらかったり(いわゆるシャイ、内向的な性格)、苦手な刺激を受けたりすることで、集団生活に馴染めず閉じこもりがちになったりすることがあります。
その結果、幼稚園などに行きたがらなかったり、学校の登校拒否につながったりすることもあるのです。
1-3. 赤ちゃんの時から見られるHSCの特徴
赤ちゃんのときから、病気や体調不良でもなく、栄養もしっかりとれているのにとにかく良く泣く子どもがいます。これも、HSCの敏感さがゆえに起こる赤ちゃんの反応です。夜泣きが人一倍ひどかったり、夜になかなか寝付けなかったり、何度も目がさめたりするということも少なくありません。もちろん赤ちゃんなので、上記のような反応は普通に見られますが、HSCの赤ちゃんは少しの音や光に過敏に反応してしまいます。
また、お母さんがあやそうとして、歌を歌ったり、抱っこしたりといったことで、余計に泣くということも見られます。これは、刺激に対して敏感であるため、お母さんのあやす行動も刺激となって反応してしまうのです。そのため、泣き止むまで、静かにしたり、できるだけ落ち着いて様子を見てあげたりするほうが良い場合もあります。
幼児期や学童期になって、「今思えば赤ちゃんのとき、人一倍よく泣いていた」なんて思い返すお母さんも、少なくないようです。
1-4. HSCは決してマイナスな特徴ではない!HSCの長所
HSCの特徴をあげると、マイナス面ばかりが目につくかもしれませんが、決してそうではありません。過剰なまでの「敏感さ」や「繊細さ」が長所となることもあります。
例えば、次のような視点でHSCの特徴を見れば、HSCの子どもの長所と捉えることができます。
<HSCの子どもの長所>
- 人の気持ちを理解して、優しく対応することができる
- 周りの子よりも細かいことに気がきく
- 自分が納得するまで集中して物事を進めることができる
- 感受性や想像力が豊かで芸術性が高い
- 慎重に物事をすすめ、危険な行動や失敗が少ない
以上のように、敏感さや感受性が高いといった特徴が、メリットとなる部分もあります。高い芸術性や集中力を生かした分野で力を発揮する場合もあります。
また、HSCの子どもは人の気持ちに敏感なことから、一人の人と真剣に向き合い、親切で丁寧に対応することができる、とても優しい子どもと言い換えることもできるでしょう。このような特徴は間違いなくHSCの子どもの長所なのです。
2. HSCと発達障害との違い
HSCと聞くと、発達障害の一種と思われる方もいるでしょう。しかし、HSCは発達障害とは違い、生まれた時から備わっている「気質」とされています。より、HSCの理解を深めるため、発達障害との違いをそれぞれの特徴を比べながら解説します。
2-1. 発達障害は脳の発達の遅れからくる特性
自閉症や注意欠陥・多動症などの発達障害は、生まれながらに脳の機能の一部に障害があったり、発達が遅れたりすることで見られます。そのため、行動や感情をコントロールしたり、刺激に対して対応したりすることができないことがあります。
2-2. HSCは生まれ持った気質の1つ
HSCの子どもは、脳の機能や発達に異常は見られないとされています。持って生まれた気質として、人より敏感で感受性が高いのです。そのような、HSPやHSCの特徴は、遺伝的に組み込まれたものであるとする説もあるようです。
2-3. 比べてわかる!HSCと発達障害の比較
実は、特徴だけ見るとHSCと発達障害は似ている部分もあります。例えば、発達障害の1つである「自閉症スペクトラム障害(以下ASD)」の子どもは、音や光などの特定の刺激を極端に嫌がるという特徴があります。これだけを見ると、HSCの刺激に対する過剰な反応と一緒のように感じられるかもしれません。しかし、HSCとASDの子どもは、「刺激に敏感である」原因に違いがあるのです。
HSC | ASD | |
---|---|---|
敏感な原因 | ささいな刺激でも気づいて処理しようとするため | 脳の機能の障害により刺激の処理が困難なため |
また、HSCは学校や集団での取り組みで集中力が欠けやすいといった特徴があります。これは発達障害の注意欠陥・多動症(以下ADHD)に見られる、「落ち着かずじっとしていられない」と一緒のように感じられるかもしれません。しかし、「集中できない」といった特徴は似ていますが、その原因は全く違います。
HSC | ADHD | |
---|---|---|
集中できない原因 | 集団から受ける多くの情報を処理しようとして疲れてしまうため | 衝動や注意をコントロールする脳の機能がうまく働かないため |
以上のように、一見同じような特性をもつHSCと発達障害の子どもでも、行動を引き起こす原因を比べてみると、大きく違いがあることがわかります。
発達障害の場合は、人の気持ちを理解したり、周囲の状況を読むといった脳の機能が低下していたり、発達が遅れたりしています。そのため、人間関係やコミュニケーションの障害が生じるのです。一方、HSCは刺激に対して過敏で、人の気持ちや雰囲気の変化も敏感に察します。発達障害の子どもと違い、人の気持ちに対する感受性が高く、とことん人の気持ちや周りの状況を理解したり、共感したりすることができます。
しかし、感受性が高すぎるがゆえに、情報が処理しきれずかんしゃくを起こしたり、集中力を欠いたりといったことにつながり、人間関係に疲れたり、コミュニケーションがとりづらかったりするのです。
3. まとめ
HSCの子どもがもつ敏感さがゆえに、子育てに苦労することも少なくありません。「なんでこんなこと気になるの!」、「他の子と同じように考えられないの?」と思ってしまうこともあるかもしれません。敏感に人の心を考えられるHSCの子どもは、そんなお母さんの思いを察して「自分はダメな子なんだ」と落ち込んでしまうこともあるので注意が必要です。
HSCの子どもは、人一倍、他人を思いやれる、優しい心を持っています。HSCの特性を理解して、ありのまま受け入れ、愛情を持って接することで、自分を肯定する気持ちを育むように関わっていきましょう。