発達障害の子どもによく見られる症状の1つに「睡眠障害」があげられます。
とりわけ注意欠陥性多動症(以下ADHD)の場合に睡眠障害が現れることが多く、両者が密接に関係していると考えられています。
子どもにとって睡眠障害があると、日中の生活にさまざまな悪影響を及ぼし、心身の成長に支障をきたす場合も少なくありません。
今回は、その睡眠障害の特徴や影響、発達障害との関連性や対応方法についても解説していきます。
目次
1. 発達障害の子どもに見られがちな睡眠障害の特徴
子どもの睡眠障害は、「夜に眠れない」というだけでなく、いろいろな症状や特徴があります。
そこで、発達障害の子どもの睡眠障害の種類や、その種類別の症状について紹介していきます。
1-1.夜に眠れなかったり何度も目が覚めたりする(夜間不眠)
「発達障害の子どもが赤ちゃんのとき全然寝付いてくれなかった」
「何度も子どもが目を覚ましてしまった」
という保護者の声も少なくありません。
このように、寝ようとしてもなかなか寝付けない入眠(にゅうみん)に問題がある場合や、寝たと思ってもすぐに目が覚めたり、夜間何度も起きてしまったりする中途覚醒(ちゅうとかくせい)の症状がみられることがあります。
これらは、夜間に十分に眠ることができない「夜間不眠(やかんふみん)」と呼ばれ、生活リズムの乱れや日中の眠気などを引き起こすため、生活に支障をきたします。
2-2.日中の強い眠気
実は、眠れないだけが睡眠障害なのではなく、「眠くなる」ことも睡眠障害の1つです。
発達障害の子どもの睡眠障害は、「夜更かししたから眠たい」というような一般的に想像できる「眠気」とは異なります。
自分で起きておこうと思っても、強い眠気のため起きておくことができないような状態です。
この眠気の原因は、不眠によるものであると考えれば想像しやすいのですが、近年では発達障害において考えられている「脳の働きの問題」が影響しているとされています。
そのため、夜間の睡眠時間が十分な場合でも、日中の眠気が取れないことがあります。
また、興味や関心のあることに対してはしっかり覚醒できるのに、そうでないものに対しては眠気でぼーっとしてしまうということもあります。
2-3.体内時計の乱れ
通常の「日中は起きて夜に眠る」という覚醒のリズム(体内時計)が乱れる症状で、不眠や日中の眠気につながります。
学校での学習にしろ、発達を支援する療育にしろ、子どもの社会生活は、日中の活動と夜間の十分な睡眠を基本として成立することがほとんどです。
そのため、体内時計の乱れは、生活に大きな影響を及ぼしてしまうことになります。
2. 発達障害と睡眠障害の関係
発達障害の子どもは、なぜ睡眠障害が合併しやすいのか、気になる方も多いのではないでしょうか。
睡眠障害がどのように発達障害と関連しているのかを知ることは、睡眠障害への対応のヒントにもなり得るでしょう。
2-1.ADHDと睡眠障害の関係
最近の研究でも、発達障害の原因ははっきりとは解明されていませんが、ADHD(注意欠陥性多動症)には、アドレナリンやノルアドレナリンといった脳内に分泌される物質が関係しているという考えが注目されています。
この物質の分泌や働きの調整がうまくできないことが、ADHDを引き起こしているのではないかと考えられているため、ADHDの症状を緩和させる治療薬として、アドレナリンなどの働きを活発にするものが使用されています。
これらの物質は覚醒にも関係しているため、ADHDで睡眠障害を引き起こすことが多いのではないかと考えられています。
※ADHDに関しては、「ADHD(注意欠陥多動性障害)はどんな発達障害?ADHDの特徴と概要」でも詳しく解説しています。
2-2.ASD(自閉症スペクトラム)と睡眠障害の関係
夜になると眠たくなるのは「メラトニン」や「セロトニン」と呼ばれる物質の働きが関係しています。
最近の研究では、ASD(自閉症スペクトラム)にはメラトニンやセロトニンの分泌の障害やこれらの分泌に関わる遺伝子の異常が見られるという報告があります。
このことから、ASDの場合、メラトニンなどの働きに何らかの障害が生じ、体内時計が狂ってしまうことから睡眠障害が起きてしまうのではないかと考えられています。
※ASDについての詳細は、「ASDはどんな発達障害?ASDの概要と特徴」で紹介しています。
3. 睡眠障害が子どもに与える影響とは
これまでの説明から、睡眠障害があると眠気のせいで日中の活動や健康に支障をきたす可能性があるのは想像に難くないと思いますが、子どもへの影響はそれだけではありません。
そこで、睡眠障害が子どもに与える影響について詳しく解説していきましょう。
3-1.日中の活動に支障をきたす
第1章の「発達障害の子どもに見られがちな睡眠障害の特徴」の部分でも解説したように、睡眠障害によって日中に眠気が感じられたり、昼夜逆転の覚醒リズムが生じたりしてしまうと、学習や療育を十分に受けることができなくなってしまいます。
また、興味や関心のあることにはしっかりと取り組めるため、睡眠障害とは気づかれずに、単なる「不注意」や「やる気が無いだけ」とみなされてしまうこともあります。
3-2.睡眠不足による心身の健康への悪影響
夜間不眠になってしまうと、心身に悪影響を及ぼしてしまうことは容易に想像できるでしょう。
大人においても、慢性的な睡眠不足による「睡眠負債」がさまざまな病気のリスクを高めるということが注目されています。
子どもの場合でも、慢性的な睡眠不足のせいで、日中に頭痛やだるさなどの体調不良を感じたり、集中力低下やうつ症状などの精神的な不調があらわれたりすることにもつながります。
3-3.睡眠障害による二次的な影響
前述のような睡眠障害の直接的な悪影響だけではなく、二次的な悪影響も生じる可能性があるため、注意が必要です。
具体的には以下のような例があります。
~睡眠による二次的な影響の例~
例1
夜間に何度も起きてしまう子どもの面倒を見ているうちに、母親が慢性的な寝不足に陥り、日中の子どもへの対応が不十分になることで、子どもの発達障害の症状が悪化してしまう。
例2
体内リズムの変化のせいで、授業中に眠気を感じて授業に集中できず、先生に注意されたり周りの生徒からからかわれたりすることで、子どもの自己肯定感が低下して、不登校に陥ってしまう。
このように、睡眠障害が発達障害の症状や日常生活に対して間接的に悪影響を与える場合も少なくありません。
4. 睡眠障害がある場合の対応方法
上述の通り、睡眠障害は発達障害の子どもには珍しくない症状の1つでありますが、これは子どもはもちろんのこと、保護者にとっても心身の負担が大きい症状です。
そこで、睡眠障害に悩まされている場合の対応方法をご紹介いたします。
4-1.悩まずに専門家に相談しよう
これまでご紹介してきたとおり、発達障害による睡眠障害と言っても、症状や原因はさまざまです。
自己判断で対応しようとすると、うまくいかないことも多く、結果として二次障害を招いてしまう可能性も高まります。
そのため、発達障害の専門家に相談して、睡眠障害の要因や対策を一緒に考えることが重要です。
中には、薬によって症状が緩和されるものもあるため、必要に応じて医師などの診察や治療を受けるようにしましょう。
こうした専門的な病院への受診につなげるためにも、発達障害に関する相談窓口に早めに相談するのがよいでしょう。
※発達に関する相談窓口については、「発達障害の相談はいつ、どこにすればいいの?」で詳しく紹介しています。
4-2.生活環境の調整で改善する場合も
自宅での生活環境が睡眠障害に影響を与えている場合もあります。
その場合は、それをうまく調整することで、適切な睡眠につなげることができるでしょう。
例えば、興味がないことに対して眠気が強まってしまう子どもの場合は、そのような行動をなるべく避けて、眠気を極力避けるようにしましょう。
また、日中に適度な運動をするようにしたり、日頃から出来るだけ日光に当たるようにしたりすることで、体内リズムを正常に近づける工夫もできます。
夜間にスマートフォンやタブレットなどの光の刺激に触れないようにしたり、テレビを遅くまで見ないようにしたりすることも重要なことです。
5. 発達障害の子どもと睡眠障害の関係に関するまとめ
発達障害の子どもにおける睡眠障害は、当の本人の子どもはもちろん、その保護者も対応に困って疲弊することが少なくありません。
その結果、育児への工夫をする余裕がなくなり、発達障害に対して二次的な悪影響につながることもあります。
また、発達障害の子どもは、たとえ睡眠時間が十分であったとしても、日中に眠気を感じる場合があるので注意が必要です。
親子共々、心身ともに健康な生活を送ることが何よりも重要なことです。
今回ご紹介したような睡眠の特徴がみられる場合は、早めに専門家に相談するようにしましょう。