「子どもを褒めて伸ばしたい…」というのは、多くの保護者が理想としていることでしょう。しかし、褒め方が分からず「ついつい叱ってしまう」、「どう褒めたらいいかわからない」といった声も聞かれます。
特に発達障害の子どもは、褒め方にもコツが必要で、保護者側の心構えも求められます。どんなことに気をつければよいのか、発達障害の特性ごとに褒め方のポイントを見ていきましょう。
目次
1. 褒め方が子どもの成長に大切な理由
まずは何のために褒めるのかを考えてみましょう。決して子どもを甘やかすためではありません。褒めることの目的は「今やったことはいい行動だよ」と認識させ、習慣づけ、できることを増やしていくことにあります。
1-1 子どもを伸ばす褒め方の基本
子どもを伸ばす褒め方の基本は、以下の通りです。
●時間を空けずに子どもを褒める
子どもが望ましい行動をしたときは、その場ですぐに褒めることが大切です。時間を空けてしまうと、子どもは何に対して褒められたのかがわからず、行動と結びつけることができません。
●具体的な言葉で子どもを褒める
子どもを褒めるときは、「宿題をちゃんとやってえらいね」、「きれいに片付けられたね、すごいね」など、何に対して褒めているのかを具体的にすることがポイントです。具体的に伝えないと、どの行動が褒められたのかがわからず、行動の動機付けにはなりません。
また、注意したいのが、褒め言葉に不要な一言をプラスしてしまうことです。たとえば「30分も勉強してえらいね!いつもそうだったらいいのにね」、「算数の計算ができるようになってすごいね!やればできるじゃない」など。これでは、せっかく褒められたのに注文をつけられたように感じ、褒められたことに対する子どもの喜びが半減してしまいます。
●成果ではなく努力で子どもを褒める
子どもを褒めるときは、成果や才能ではなく、努力や過程を褒めることが大切です。「テストで80点を取ってえらいね!」という風に成果を褒めると、反対に「いい点を取らなければえらくない」というメッセージを伝えることになってしまいます。その結果、努力することより、“ズル”をしてでもいい点数を取ろうとしたり、悪い点数のときはそれを隠そうとしたりしてしまう可能性があります。言い換えるなら「たくさん勉強したんだね、えらいね!」といった言葉がよいでしょう。
また「あなたは国語の才能があるのね」という風に才能を褒めると、いい成果が出るのは才能があるから、悪い成果が出るのは才能がないからという思考になります。その結果、「才能があるから勉強しなくてもよい」、「才能がないから勉強しても無駄だ」という風に、努力をしなくなってしまう可能性があります。言い換えるなら「国語の勉強をがんばったんだね、すごいね」といった褒め方がよいでしょう。
1-2 望ましい行動と褒めることを結びつけよう
人間や動物が自発的な行動を取る仕組みを説明した理論に「オペラント条件付け」というものがあります。アメリカの心理学者ソーンダイクの実験を元に、同じくアメリカの心理学者スキナーが研究したこの理論は、自発的行動により起こった結果(刺激)に応じて、その後の自発的行動の頻度が増減するとされています。
- 勉強をした→「褒められた」という結果により、その後勉強する頻度が増える
- 勉強をせずにゲームをした→「叱られた」という結果により、その後ゲームをする頻度が減少する
といった例が挙げられます。この場合、「褒められた」というのは“正の強化子(その後の行動の頻度が増加する結果)”、「叱られた」というのは“負の強化子(取り除くことで行動の頻度が増加する結果)”と考えます。
オペラント条件付けをもとに、「なぜ、どうして、その行動をするのか」を、A先行刺激、B行動、C結果という3つの要素で解説したのがABC分析(三項随伴性)です。
(出典:カウンセラーウェブ)
子どもを褒めて、望ましい行動を増やすには、「○○をすると褒められる(良いことが起こる)」というように、行動と結果を結びつけることが大切です。
1-3 正しく褒められると子どもはどうなる?
褒められることで、子どもは自信を持つことができます。その自信は、もっとがんばろうという意欲につながり、子どもを成長させます。正しく褒められると、子どもはどのように変化するのでしょうか。
●前向きに挑戦する気持ちが子どもに生まれる
自分がやったことを褒められれば、誰もがうれしい気持ちになります。子どもは、保護者に褒められることで「もっとやってみよう!」という意欲を持つのです。たとえ失敗しても、挑戦したことを褒めてもらえれば、再チャレンジしようという気持ちになれるでしょう。
●自己肯定感が子どもに芽生える
褒められることが少なかったり、叱られることが多かったりする子どもは、「どうせ自分なんか……」と自己肯定感が低くなってしまいます。マイナス思考となり、何かにチャレンジする気持ちが生まれないでしょう。
反対に、よく褒めてもらえる子どもは、自分が大切にされている、見守られていると感じ、自己肯定感が高くなります。成功体験を積むことができるので、ポジティブ思考になるでしょう。一方で、間違った褒め方をすると、よくない影響も出てきます。理由もなく「あなたはすごい!」、「天才!」などとむやみに褒めると、「自分はエライ」と思い込んでしまいます。その結果、自分はエライのだから努力しなくてもよい、みんなが自分の言うことを聞いてくれる…などと勘違いしてしまうのです。また、他の子どもが褒められているのを素直に喜べない子になってしまう可能性もあります。
「1-1 子どもを伸ばす褒め方の基本」を参考に、子どもを伸ばす褒め方を実践しましょう。
2. 発達障害の特性別・褒め方のポイント
発達障害の子どもには、それぞれの特性ごとの適した褒め方があります。「1-1 子どもを伸ばす褒め方の基本」をベースに、その子に合った褒め方を取り入れてみましょう。自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)の3つに分けてご紹介します。
2-1 自閉スペクトラム症(ASD)の子どもの褒め方
自閉スペクトラム症の子どもには、決まったフレーズで短く褒めることが大切です。褒める項目をあれこれ変えたり、いろいろな言葉で褒めるたりすると伝わりにくくなってしまいます。「ちゃんと手を洗ってえらいね」、「お片づけができてすごいね」など、言葉を決め、ルーティン化させていきましょう。一気にいろいろなことをやらせるのではなく、少ない項目をじっくり身につけさせるのがポイントです。また、体への刺激も良い影響を与えるため、「すごいね」と頭をなでたり、「よくできたね!」とギュッと抱きしめたりするなどのボディタッチも取りいれましょう。
2-2 注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもの褒め方
注意欠陥多動性障害の子どもは、言われたことをすぐに忘れてしまったり、別のことに気を取られてしまったりするのが特徴です。そのため、子どもがわかりやすいルールを決めて、見やすい位置に貼っておくとよいでしょう。
<ルールの例>
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- 学校から帰ったら宿題を机の上に出す
- 宿題が終わったら忘れずにランドセルに入れる
- 寝る前に机の上を片付ける
など、いろいろなルールを書くのではなく、一番直したいこと・やってほしいことは何かを考え、少ないルールから始めます。できるようになったら、徐々にルールを増やしてOKです。また、子ども自身にルールを決めてもらうのも良いでしょう。ルールを守ることができたら、すかさず褒めます。このとき、ワンパターンの言葉ではなく、毎回違った方法で褒めてあげるのがポイントです。「わぁ!ちゃんと宿題を机の上に出せたね!すご~い!」、「言われなくても机の上を片付けたなんて、いい子だね」など、バリエーションをいくつもつくっていきましょう。そうすることで、褒められること自体が刺激となり、子どもは「もっと褒められたい」と感じます。それが、ルールを思い出し、実行する動機付けになるのです。
2-3 学習障害(LD)の子どもの褒め方
学習障害(LD)は脳機能の問題で、「読み書き」や「計算」など、特定の感覚に困難があるのが特徴です。苦手な分野を補う方法を育てていくことが、その後の成長につながります。そのため、自己肯定感を育てていくような褒め方をする必要があります。たとえば、読み書きが苦手な子どもにはタイピングを学習させてあげ、「タイピングがすごく上手だね」と褒めるなど。弱い部分があっても、別の方法で補っていけるのだということを覚えさせてあげましょう。
2-4 複数の発達障害の特性を持つ子どもの褒め方
発達障害の子どもは、複数の特性を併せ持つケースがよくあります。その場合は、一番重く現れている障害は何かに重点を置いて、褒め方を考えていきましょう。何より、子どもの特性を理解する必要があります。がんばっても手が届かない目標ではなく、手の届く目標を設定しながら、褒めて伸ばしていってください。
3. 発達障害の子どもを持つ保護者の心構え~「褒め方」の共有~
以上のように、褒め方の基本を知り、発達障害の特性に合わせた褒め方をしていくことが大切です。そして、一番重要になるのが、父親と母親が共通の認識を持ち、褒め方を合わせること。父親と母親の褒めるタイミングがバラバラだったり、褒めるときのハードルが違っていたりすると、子どもは混乱してしまいます。目標、褒めるタイミング、褒め言葉などを夫婦で共有しておく必要があります。じつは、ここが一番難しいところかもしれません。父親と母親にも心構えが必要です。
褒めることは、子どもの可能性を大きく伸ばすことにつながります。その子に合った目標やルールをつくり、両親が共通の認識のもと、正しく褒めてあげるようにしましょう。
褒める際の「ご褒美のあげ方」についてはこちらをご覧ください。