「落ち着きがなくてみんなと遊べない」、「ぼーっとしていて忘れものが極端に多い」などは、ADHDの子どもに見られる特徴の一例です。ADHDは「注意欠陥多動性障害(ちゅういけっかんたどうせいしょうがい)」といい、脳の一部がうまく働かないことで、注意力に欠けたり、我慢ができず落ち着きがなかったりします。子どもの発達障害として有名ですが、近年は大人になって初めて診断される障害としても注目されています。今回は、ADHDがどのような障害なのか詳しく解説します。
目次
1. ADHD(注意欠陥多動性障害)とは?
ADHDとは発達障害の1つで、脳の一部がうまく働かないことで、落ち着きや注意力のなさ、衝動的な行動といった特徴をもちます。一見すると、どの子どもにも見られるような性格にも思えます。しかし、小さい頃に見られるような落ち着きがない、我慢できないといった性格は、成長するにつれて少しずつ徐々に修正されるものです。ADHDの子どもは、成長していっても、指示やルールに従って行動ができなかったり、衝動的に行動してしまったりすることで、幼稚園や学校、家庭生活でいろいろな支障が生じます。子ども全体の5%程度にみられる障害で、女の子より男の子の方ADHDの割合が5倍ほど多いとされています。
1-1. ADHD(注意欠陥多動性障害)の特徴・症状
ADHDには、以下のような3つの代表的な症状がみられます。
ADHDの代表的な3つの症状
- 不注意
- 多動性(落ち着きのなさ)
- 衝動的(我慢できない、待てない)
それぞれ、具体例を交えながら症状をみてみましょう。
◯不注意
一つのことに集中できず、ぼーっとしていたり、上の空だったりすることがよくみられます。そのため、以下のような症状がみられます。
「不注意」の例
- 話しかけられても、聞いてないように見える
- 指示された勉強や用事を続けられず、最後までやることができない
- 忘れものが多い
- 他の刺激にすぐに気がそらされる
- 日課や約束を忘れてしていない
- 順序通りものごとを進められない
- 集中して行わなければならない作業は苦手
- ものをよく無くす
◯多動性
落ち着きがなく、いつもソワソワしていたり、じっとしていられず動き回ったりします。生活の場面では、以下のような特徴がみられます。
「多動性」の例
- じっとしていなければいけない場面でも歩きまわる
- 椅子に座って話をきけない
- 手足をいつも動かしている
- 静かに遊ぶことができない
◯衝動性
順番を待っていたり、人が話していたりする場面でも、我慢したり待つことができなかったりします。多動性とともに、小さいころは「元気な子ども」程度の特徴でも、以下のような場面が目立つことで集団生活に支障をきたします。
「衝動性」の例
- 人が話していても割り込んでおしゃべりする
- 順番抜かしをする
- 人のあそびや勉強の邪魔をする
- 質問を全部きかず答える
- 自分の思いが通らないとヒステリーを起こす
- すぐに手がでる
ADHDだからといって、これら3つの症状が全て同じようにみられるわけではなく以下のようなタイプに分けられます。
◯不注意優位タイプ
不注意の症状が目立ち、多動性や衝動的な様子は比較的少ないタイプです。
◯多動・衝動優位タイプ
じっとしていられず、気持ちを抑えられない行動が、ひときわ目立つタイプです。
◯混合タイプ
不注意と多動性・衝動性がどちらも同じくらいみられるタイプです。
ただし、ADHDの症状は年齢によって変化し、子どもは特徴がはっきりわかることが多いですが、大人になるにつれて症状があまり目立たなくなります。
1-2. 大人のADHD(注意欠陥多動性障害)が増えている
最近ではADHDと診断される大人が増加しているとのことで、世間の注目を集めています。厚労省によると、平成23年から平成26年の3年間でADHDと診断される人の数は約3万人増加しているとされています。
これほどまでに急激に増加していたり、大人のADHDがよくみられたりする背景には、「認知度の高まり」と「社会環境の変化」が理由にあげられます。
◯認知度が高まることで受診につながりやすいため
以前にくらべ、「発達障害」や「自閉症」、「ADHD」という言葉をよく耳にするようになりました。そのため、自分が社会に馴染めない、周りの人と少し違うと意識した際に、「もしかするとADHDかも…」と認識しやすくなり、受診、診断につながりやすくなりました。
結果として、以前より大人のADHDが増加している要因になっていると考えられます。
◯社会の環境が変化しているため
インターネットやITなどが普及して、以前に比べ社会にはさまざまな情報があふれかえり、それを取捨選択しながら生活を送ることが求められるようになりました。また、体を動かすよりも長時間座ってデスクワークなどの作業をする機会が増加しています。
そのため、不注意で、じっとしていられないADHDの大人にとって、以前に比べ適応しにくい社会になっていると言えます。
その点で、社会に適応できずに発達障害の診断につながる大人が増加しているのです。
1-3. ADHD(注意欠陥多動性障害)の特徴のあらわれ方~子供から大人~
ADHDは子どもから大人になるにつれて、周囲を取り巻く環境が変わっていくことで、特徴のあらわれ方にも変化がみられます。
子どもの社会生活の中心は「学校」です。そのため、学校で課題や宿題を忘れやすかったり、勉強でうっかりミスが多かったり学習に関する問題が起きます。また、じっとしていられず授業中にしかられたり、授業がうまく受けられなかったりしてしまいます。自分の好きな遊びやテレビなどばかりして、なかなか必要なことを始められないといった問題も起きます。
2. ADHD(注意欠陥多動性障害)の原因
ADHDの原因は現在の科学でははっきりとわかっていません。しかし、何らかの原因により、脳にある前頭前野と呼ばれる部分がうまく働かないため、実行機能の障害が起こっているということは分かっています。実行機能とは以下のような機能です。
「実行機能」の例
- 状況(ルールや決まりごと)を把握して理解する
- 順序や計画を立てる
- 衝動を抑えて考える
- 過去の経験を生かして行動する
- 注意力を働かせて考える
このような能力に障害が生じることで、注意力を欠いたり、衝動的な行動を起こしたりしてしまいます。
また、私たちが様々な刺激を脳内でうまく処理するために、神経伝達物質と呼ばれる物質が重要な役割を果たしています。ADHDでは、ノルアドレナリンやドーパミンと呼ばれる神経伝達物質がうまく働かないために、刺激をうまく処理しきれず、不注意や多動、衝動といった症状がみられるとされています。
3. ADHD(注意欠陥多動性障害)の診断
ADHDの診断は不注意や多動性、衝動性といったADHDの具体的な特徴が見られて、社会生活を送る上で不都合が生じている場合に診断がつけられます。今回ご紹介したような症状にどれくらい当てはまるかを確認してみてください。
一方、最近はADHDのグレーゾーンと呼ばれる、診断を受けていないもののADHDの傾向がみられる人も多いとされています。そのため、気になる場合や少しでも不安な場合は、医師による診察を受けることをおすすめします。
4. ADHD(注意欠陥多動性障害)の治療
ADHDの治療は「薬物療法」と「心理面へのアプローチ」の2つが主です。専門家などを交えて、ADHDとしてみられる症状を整理して、どのような場面で不都合が生じているかを分析します。その結果をもとに、症状に合わせた対応方法の工夫や環境の調整、整理を行っていきます。必要な場合は、薬物療法を併用しながら治療を行います。薬物療法は神経伝達物質の働きを調整する薬物が利用されます。
2019年には4剤目となるADHDの新薬が承認される見通しとなり、これからも効果的な薬剤の開発が期待されています。
5. ADHD(注意欠陥多動性障害)の子どもへの対応
ADHDの子どもは気持ちや動きをコントロールすることが苦手です。しかし、うまく情報の量をコントロールしたり、やる気を引き出すポイントをおさえれば、集中してもらったりルールをしっかり守ってもらったりすることも可能です。
そこで、症状別に具体的な対応方法を紹介します。
◯不注意に対する対応方法
注目しやすいように、言葉だけでなく絵や写真のような視覚的な情報を与えてあげることが効果的です。リマインダーやチェックリストを作って、日々の日課や約束事を忘れないようにすることも工夫の1つです。
視覚的な情報を活用する際、子どもの目線の高さに合わせたり、目に入りやすい場所に張り紙をしたりといった工夫も必要です。また、話しかけるときは、しっかり目線を合わせて、体に一度触れてしっかり注目させてから話すようにしましょう。
◯集中できないことに対する対応方法
何かを始めようとしてもなかなか始められない場合は、「ごほうび制度」と「スモールステップ」がポイントです。ごほうびはADHDの子どもにとって、効果的な対応方法です。例えば、ポイントやシールをごほうびに設定して、「◯◯を始めたら◯ポイント」というように、1つ1つの行動にポイントを設定したり、シールを貼ったりすると、行動を始めやすくなります。
◯落ち着きのない衝動的な行動に対する対応
多少の落ち着きのなさは目をつぶり、活発さが重要な屋外での遊びやスポーツなど良さを生かせるように工夫することは1つの方法です。また、美術館や満員電車など落ち着きが必要となる場所などをできるだけ避けることも必要です。
とは言っても、横断歩道や踏切、小さな子どもと一緒の場面など危険な状況では落ち着きは必要です。そのときは、ルールを日頃から決めておくとともに、絵カードなどを持ち歩き、すぐにルールを確認できるような工夫をするとよいでしょう。なかなか衝動を抑えられないADHDの子どもですが、見通しを具体的に伝えてあげたり、少しでも動ける欲求を満たしてあげたりといった工夫もできます。例えば、砂時計やタイマーなどで具体的な時間を示したり、体を動かすような遊び(じゃんけんや手遊びなど)をしながら待つなどの工夫が考えられます。
ADHDの子どもは自分の行動を振り返ることができますので、待つことで周りの人々がどう思ってくれるか、どんなよいことがあるかを日頃から伝えることも効果的です。また、ごほうび制度を活用して、「待つ=ごほうび」と認識させ、待つ力をつけていくことも1つの方法です。
◯ほめ方・しかり方のポイント
ADHDの子どもは、ほめ方やしかり方にも工夫が必要です。叱るときはついつい長く説教してしまいたくなりますが、長く話しても集中力が続かないADHDの子どもにとっては効果的ではありません。そのため、大切なことのみを短く具体的に伝えるようにしましょう。ほめるときも同様に、わかりやすい言葉で伝えることが重要です。
特に、よいことをしたときは素早くできた部分を伝えてほめることで、子どもにほめているということが伝わりやすく、自己肯定感を育てることができます。
6. ADHD(注意欠陥多動性障害)に関するまとめ
ADHDはいまや多くの人に知られている障害のひとつですが、具体的な症状や対応方法まで知っているひとは多くありません。また、ADHDの子どもや大人にとって、生活しやすい環境が整っているとは決して言えない環境に変わりはありません。
そのため、少しでも多くの人がADHDの特徴や症状を知って、ADHDでも暮らしやすい社会を築くことがこれから重要になっていきます。